──『食アド®情報誌』──
15周年記念対談

〜フルバージョン〜

澤 穂希さん
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竹内弘光
(FLAネットワーク協会会長)

澤 穂希さんが食アド®3級合格!

◎サッカー界のレジェンド/食生活アドバイザー®3級 澤 穂希さん

澤 穂希さんが、第49回食生活アドバイザー®3級を受験し、見事全問正解で合格された。結婚・引退後、家族の食生活や子育てを担う中、新たなチャレンジのひとつが食アドだった。家庭人としての、また元トップアスリートとしての食のあれこれを、FLAネットワーク協会会長・竹内弘光がお聴きした。

サッカーの普及を通して感じる
子どもたちへの食育の大切さ

竹内 澤さん、食生活アドバイザー3級合格おめでとうございます! しかも、極少数しかいない全問正解者の一人です。

 本当ですか。うれしいです! ありがとうございます!

竹内 今日の対談は、昨年テレビ出演された澤さんが、食アドを勉強中だと言ってくださったことがご縁の始まりで実現しました。私たちにとっては大変うれしいことだったのですが、食アドを勉強してみたいと思ったのはなぜですか?

 もともと食にはすごく興味がありました。アスリートとして、カラダのもとになる食事の大切さは感じていましたし、結婚して夫の食事を作ったり子育てをしたりする中で、さらに重要性を感じ、ちゃんと勉強してみたいと思ったのです。
 それと、父親の影響も大きいです。父は会社勤めをしながら調理師免許を取ったくらい食にこだわる人でした。今も、子どもを連れて実家に行くと、手打ちの蕎麦やラーメンを作ってくれますが、街場の店には負けない美味しさです。父も母も、よく美味しい手作り料理を作ってくれたのを覚えています。

竹内 なるほど、子どもの頃から味覚を鍛えられてた訳ですね。

 しかも父は、魚、肉、米以外の食材は自宅の庭で無農薬栽培し、ほぼ自給自足する徹底ぶりなんです。果物の木も立っています。小学校のとき、学校から帰宅したら鍵がなくて、桃の木に登って2階の窓から入ったことがありました。みかんは出荷できるくらい見事ですし、トマトを煮込んでトマトジュースを手作りします。
 学生時代にバレンタインチョコを作ってたら父が口出してきたんですよ。「人さまに差しあげるものは、手をかけてちゃんと作りなさい」ですって。

竹内 お父さま素晴らしい! そんなふうに自然と食育を受けて育った澤さんは、ご家族の食生活にも良い影響を与えているはずです。どんな工夫をされてますか。

 おかげさまで、娘も夫も好き嫌いはありません。娘は小学1年生ですが、お弁当に入っている梅干しはもちろん、ピクルスやバジルも食べます。親が美味しそうに食べるのがいちばんかなと思いますが、工夫としては、甘いフルティカトマトを買ってきて「いちごトマトだよ」って食べさせたり、細かく刻んで好物のカレーやハンバーグに入れたりはしました。

竹内 娘さんはかなり味覚が発達して、いわゆる舌が肥えている状態。もちろん良いことなんですが、うっかりしたものは出せなくて、将来大変かも(笑)。

 そうなんです。娘は夫の作るナポリタンが大好きで、もう外のナポリタンは食べたくないって言いますもの。

竹内 テレビではご主人への“メッセージ弁当”が話題になっていましたね。

 キャラ弁やデコ弁は不得意なのですが、包みのラップなどに「ありがとう」とか「Smile」とか、前向きな言葉を書いてたのを喜んでくれて、写真を撮ってくれてたのがテレビに出ちゃいました。
 今は夫の職場が福島なので、食事をつくってあげられるのは週末だけなんです。仕事の疲れが取れるような、野菜中心で栄養バランスも考えたメニューを、品数は多くつくります。サラダは2、3品、メインも肉と魚の両方とかですね。
 それからご飯は、お気に入りの福島産のお米を、ミネラルウォーターで、ストウブのホーロー鍋を使って炊きます。30分ほど水につけ置いてから炊くと美味しいです。
 夫が、一番好きな私の料理はおにぎりだって言ったことがあって、一瞬がっかりしたんですが、「炊き方も握り方もシンプルだから難しい。おにぎりを褒められるってすごいことなんだよ」って。



竹内 そんな食事を3人で楽しく食べる、まるで食アドのロゴマークのような、素敵な家族の絵が目に浮かびます。澤さんご自身の食事や健康維持はどのようにされていますか?

 暑くて食欲がないときには食べやすい食事をつくる、走っているときには水分補給に注意する、などは自然にしています。あとは子どもが寝た後に、ゆっくりとお風呂でリラックス。そして睡眠です。現役時代から、オン・オフを切り替えて、休むときはしっかり休むという主義でした。

 食アドもそうですし、スポーツ栄養なども、現役時代に学んでいたら、もっとパフォーマンスを上げられたかもしれないと思うことはあります。

苦手と思っていた分野が
わかり始めるとゾーンに入った

竹内 現役時代は、トップアスリートならではの食生活があったと思いますが、どんな点に気をつけていましたか?

 遠征や合宿の食事はバイキングが多かったのですが、現在のようにスポーツ栄養士などはいなかったので、自分で考えて工夫していました。試合から逆算して、追い込む時期は疲労回復にビタミンや鉄分を、試合前は炭水化物を、試合後はタンパク質を意識するといった感じでしたね。

竹内 普段は自炊もされたのですか?

 もちろんです。午前・午後の2部練習の日は自分でお弁当を作って行きました。

竹内 海外遠征も多いですよね。

 海外では衛生上、果物や水道水はNGの国がけっこうあって、歯磨きさえ持参したミネラルウォーターということもありました。高地のメキシコではみなが高山病で苦しんだこともあります。でも、その国ならではの料理は楽しみで、タイでパクチーを食べてから大好物になりました。

竹内 私、唯一食べられないのがパクチーなんですよ(笑)。

 えー、美味しいですから、ぜひ。

竹内 ドーピング対策もありますよね。

 そうなんです。ファンの方からいただいたお菓子なども、とてもありがたくうれしかったのですが、万が一禁止成分が入っているといけないので、スタッフさんらに配っていました。引退後は、市販の薬や栄養ドリンクも飲めてラクになりました。

竹内 2011年のワールドカップ決勝戦、澤さんの同点ゴールはサッカー史に残る鮮烈さでしたが、今回のなでしこも見事な戦いを観せてくれましたね。

 2011年も期待は大きくありませんでしたが、大震災の直後で、絶対に勝って日本を元気づけたいという思いで臨みました。今回も、戦うごとに強くなってほしいと願っていましたが、その通りチームとしての成長がものすごく感じられる大会でした。結果はベスト8でしたが、2024年のパリ五輪も期待しています。

サッカーの普及を通して感じる
子どもたちへの食育の大切さ

竹内 食アドを勉強してみて、印象はどうでしたか。得意不得意とか。

 健康、栄養、食習慣などは予備知識もありましたので、スイスイ行けそうな気がしたのですが、後半になるほど広範囲になって、聞き慣れない言葉も出てきて苦労しました。それでも、知らないことが少しずつわかり始めると面白くなって、いつの間にか、スポーツで言うゾーンに入ったような精神状態になったのです。それからは新しく覚えるのが楽しくて、勉強がこんなに楽しいと感じたのは初めてでした。

竹内 それはうれしい言葉です。

 勉強は、子供の登校後や寝た後にしましたが、そんなに長時間ではありません。難しくて思ったほど進まなくても、今日の集中力はここまでと割り切って、ダラダラやることはしなかったです。

竹内 集中力やポイントの押さえ方など、澤さんの資質でしょうね。お名前の通り、希に見る学習力を感じます。
 いつか2級に挑戦したいですか?

 最初は3級と2級を同時受験しようかと思ったのですが、こういうのは知識だけでなく積み重ねが大切かなと思って、まずは3級だけにしました。スーパーの陳列や食品表示も意識して見られるようになったので、もう少ししっかりと身についたら2級にも挑戦したいです。

竹内 理想的ですね。私がいつも言う、意識して、知識を学んで、見識にするためには、学びながら実践するのが一番です。
 今後、食アドを活かして取り組みたいことはありますか?

 子どもたちと楽しくサッカーボールを蹴る普及活動をしているのですが、その中で、今の子は骨が弱くなっているといった話も聞きます。子どもの食生活の大切さを感じており、サッカーの普及と同時に、食育もできる場をつくりたいです。そうした活動に関われる力をつけたいというのも、食アドを勉強した目的の一つなのです。
 竹内先生、ぜひご協力ください!

竹内 ぜひ協力させてください!本日はありがとうございました。

写真:中山達也 (弁当以外)


さわ ほまれ●1978年生まれ、東京都出身。15歳で日本代表に初招集。6度のFIFA女子ワールドカップと4度のオリンピックに出場。2011年のワールドカップドイツ大会では、キャプテンとしてチームの初優勝に貢献し、大会MVPと得点王を獲得。同年度の「FIFA女子年間最優秀選手」を受賞。4度目の出場となった2012年ロンドン五輪で銀メダル。日本代表での通算205試合出場と83得点は、歴代1位の記録(2023年9月1日現在)。2015年に結婚、同年12月に現役を引退。現在は1児の母